PRGRのクラブにまつわる過去や、新製品開発に奮闘するスタッフのいま、そして新しいクラブを世の中に生み出す未来を紹介していくノンフィクション、PRGRクラブ開発物語、通称ギアスト!今回はPRGR始まって以来最大の事件をお届けします。
2000年代後半、ひっそりと立ち上げたシニアに向けた新しいギア”egg(エッグ)”は、ゴルファーの要望を実現させる性能に特化した非常識な設計により、いつしかPRGRの柱のひとつになっていました。一方、契約プロが使用するフラッグシップモデルは、DUO(デュオ)以来の爆発的なヒット作を生み出せていません。
飛びドライバーNo1の称号
2000年代初頭に巻き上がったフェースの反発を高めるドライバー開発競争は、2008年に施行されたルール改正によってその方向性を改めざるを得ず、PRGRはフェースの高初速エリアを広げる方向に開発の舵を切ることとなります。フェースで最もたわむ点と重心点をあえて離すことによりフェースセンターでのショットで初速アップとスイートエリアの拡大を目指すものでした。
開発スタッフはフェースの反発性能以外の要素での飛距離アップに苦心しつつも、低スピンの強弾道、高初速エリアを広げる設計、スーパーコンピュータによって最適化されたフェース肉厚パターン、モーフィング技術を使用したフェース形状など、持てる技術のすべてを注ぎ込んで完成した、iD nabla RS(アイディー・ナブラ・アールエス)ドライバー(2014年)を世に送り出します。
攻撃的弾道を生むこのドライバーは、ゴルフをリアルスポーツ(RS)として取り組むゴルファーに向けたものでした。搭載されたPRGR初の弾道調整機構(カチャカチャ)は、フェースのヒール部分の反発を落とさないためにシャフトのネジ穴をフェースに接しないように2つ設けるという拘り様。
このドライバーを使用したPRGR契約プロが続々と勝利を挙げ、ついには月刊ゴルフダイジェストのドライバー飛距離ナンバー1を決める名物企画、『D-1グランプリ2015』で優勝。その飛距離性能を世の中に知らしめることが出来ました。
開発スタッフ 『もっと、もっと攻めてやる!』
限界ギリギリへの挑戦
開発スタッフによる飽くなき挑戦。さらなる飛距離アップのために開発チームが目指したのはフェースの反発性能のアップでした。フェースの反発はルールでしっかり定められているので、その数値を超えることがあってはいけません。そのため従来のドライバーはルールの上限よりも低い安全な数値を設定し開発していましたが、次期モデルはフェースの反発性能を”ルールギリギリ”に設定することを開発目標とします。
フェースの反発を高めるためには、フェース面を大きく、その形状も真円に近いほうが有効です。
※反発を高めるサンプルヘッド
ただし、フェースが大きすぎると逆にフェースの真ん中に当てづらくなるし、ヘッドスピードも上がりません。そこで試行錯誤の結果、クラウン部分に傾斜をつけることによって大フェースヘッドと同等の反発効果を得られることに着目。
この傾斜をつけたクラウン(ダブルクラウン設計)により、フェースの反発性能アップと高初速エリアの拡大に成功します。
※変形イメージ(変形率10倍)
さらに、
開発スタッフ 『限界まで飛ばすために、限界ギリギリまで攻める!』
開発スタッフが同時に取り組んだのはルールギリギリまで高めた反発性能が、決してルールを超えないようにする品質管理でした。フェースの反発についてはCT値【注1】でルール上限が決められており、CT値は専用のペンデュラム測定器で計測します。
【注1】CT:Characteristic Time。振り子の先端の金属球がフェースに接触している時間。この数値が多いと反発性能が高く、ルールでは239μs(許容差+18)を超えると違反となる
ちなみにこの測定方法ではクラブを測定器にセットするのに手間がかかり、さらに振り子の先端の鉄球を9回フェースに当てて計測する必要があるので、一箇所測定するのに約5分かかります。また鉄球をぶつけるのでフェースに傷もつきます。そこでペンデュラム測定器と同様の数値を簡易的に測定できる『フェース周波数測定器』を独自開発し、全数検査を実施することとします。この計測方法なら傷も付かないし測定時間は約5秒と、劇的に時間短縮できす。
特許を取得したこの測定器は、ドライバーフェースを検査具で軽く叩き、その周波数を測定することによってCT値と相関のある周波数を検査するというもの。ちなみにフェースを叩く際に”チン、チン”と音が鳴るので、開発チーム内では”チンチン検査”と呼んでいました。
こうしてWクラウンによってフェースの反発性能ギリギリまで高め、ルールを越えないように高精度な全品検査するという、万全の体制をもって2016年、RSドライバー、RS Fドライバーが誕生します。
このドライバーは発売前に契約外のプロが使用し優勝したことで話題となり、発売後もPRGR契約プロが優勝するなどしてツアーで活躍したため注目度はアップ、その飛距離性能は”GIRIGIRI”という広告コピーとともにゴルフ界の話題を席巻しました。
開発スタッフ 『よし!RSドライバーを今年一番の話題のクラブにするぞ!』
この願望は、いみじくも現実のものとなるです。
PRGR史上最大の事件発生
2016年11月、世界のゴルフルールを司るロイヤル&エインシェントゴルフクラブ(R&A)からPRGRにある通達が届きました。
その内容は、RS Fドライバーについてルールの上限値を上回るものが市場に混在している可能性があるということ。このためR&Aが公表している適合ドライバーリストから削除する可能性がある。というものでした。
開発スタッフ 『そ、そんな馬鹿な!!』
オリジナル測定器による高精度な全品検査を実施していた開発スタッフにとってはまさに寝耳に水、晴天の霹靂です。
もちろん発売前にR&Aにヘッドを提出して認可されたうえで適合ドライバーリストに掲載されていたのですが、もしリストから削除されたらRS Fドライバーはルール違反クラブとなりますので販売停止、全品回収。そして当然プロもツアーで使用できなくなります。
大至急、オリジナルの『フェース周波数測定器』での”チンチン検査”と並行してペンデュラム測定器でも再測定するものの、その数値はルールを超えてはいません。何かの間違いではないか。そのような希望と疑念を持ちながらR&Aからの最終決済を待つ一方で、即座にRS Fドライバーの販売を一時停止します。
その間もR&Aとは確認のやりとりを行うとともに、再検査ヘッドを送付し原因追及をおこないます。
原因が判明しないなか、事態は好転の兆しが見えません。RS Fドライバーと同時期に発売したRSドライバー、REDドライバーも同様の”ギリギリ設計”、”チンチン検査”をおこなっていたため、万が一RSドライバー、REDドライバーもR&Aから同様の通達を受けたとしたら、PRGRからドライバーが無くなってしまいます。
社内会議室に集められたPRGR社員は、状況の説明を受けると皆言葉を失い、特に前日まで新婚旅行を楽しんでいた若手営業マンは顔面蒼白。希望に満ちた明るい未来が閉ざされようとしているだから無理もありません。
そうして、契約外ながらRS Fドライバーを使用した男子プロが賞金王を獲得し国内プロツアーが幕を閉じ、数週間が経った2016年も年末の12月26日。
遂にRS Fドライバーがルール適合ドライバーリストより削除されます。
恐れていたことが現実のものとなり肩を落とす開発チーム。と思いきや、
開発スタッフ 『こうなったら、徹底的に原因を追求してやる!』
開発チームは数値を超えたという原因を徹底的に究明すること、広報チームは現在RS Fドライバーを使用いただいているユーザーに本件を伝えること。営業部隊は全国の販売店へ事情説明とお詫び行脚をすること。これらを全社一丸となっておこなうこととします。もちろんこの年の年末年始のお休みはPRGRにはありませんでした。
開発スタッフはペンデュラム測定器で朝から晩まで原因究明のためのCT測定をおこないます。従来はインパクトエリア(幅42.67ミリ)内の15箇所で測定していた範囲を2.5ミリピッチにして、フェース全面でCT値を測定。前述の通り1箇所測定するのにかかる時間は約5分。これがフェース全面となると数百箇所となるため、ドライバー1本測定するだけでもかなりの時間かかります。フェースに金属球をぶつけて発生する”キーン”という音は開発室内で延々と鳴り響き続け、測定する開発スタッフの耳に残って離れません。
このような根性の日々を続けることによって、数値を超えた原因と場所が判明してきました。
詳細は明かせませんが、遡る2016年3月にフェースの反発規制に対する測定方法が変更となったため、その新しい評価方法に対する対応が万全ではなかったこと、フェースセンターから離れた箇所でルール上限を超える箇所があったことを発見します。
ようやく原因が判明したため、RS Fドライバーのユーザーには交換用ヘッドとして測定の結果問題無いことが判明しているプロが使用していたRS Fプロトモデルを早急に生産し、ヘッド交換を翌2017年2月より開始。
■2016 RS Fドライバー無償交換について詳しくはこちら
この対応においては全国のPRGR取り扱い店様に協力いただき、販売したお客様にいち早くヘッド交換を案内することができました。これには感謝しても仕切れません。何とか一連のトラブルの出口が見えてきました。が市場品回収とヘッド交換費用で経営状況は瀕死状態。でもこのまま終わるわけにはいきません。
開発スタッフ 『この失敗を生かして、最高のドライバーを最速で作る!』
こんどのギリギリは、もっとやばい。
通常ドライバーの開発期間は2~3年。新しい構造や技術を導入するとなると5年以上かかることもあります。が、年末から全速力で走り続ける開発チームは会社を立て直すため半年後の発売を目指し、およそ3ヶ月でのクラブ開発に挑戦します。
実はフェース全面の詳細なCT検査をおこなったことによって、ルール違反とされた従来のRS Fドライバーもフェースセンター部はあと少しCT値をあげることが可能だということがわかっていました。この部分を攻めて、ルールから飛び出たところは数値を抑える。こうすることによってフェースセンターでの飛距離アップと、広い高初速エリアの両立が可能となります。ルールを越えてしまったので安全重視でCT値を下げるのではなく、よりルールギリギリに攻めることとしたのです。
この攻めの姿勢を可能としたのが、新たに開発したオリジナルの『簡易CT測定器』です。
振り子を手動でセットしていた測定作業を機械化し、ヘッド1個あたり数時間かかっていたCT測定の時間短縮を実現しました。
これを使用し、あらためて高精度な全品検査を実施。もう二度と同じ過ちは犯さない、そしてさらに飛距離を追求するという強い意思によって、ギリギリで最高の初速性能を持ったドライバーが、史上最速で完成しました。
この攻めに攻めた”ヤバイ”ドライバーは、宣言通り半年後の2017年6月。
2017RSドライバーを同時に発売することができました。
この精悍なドライバーを使って契約プロは国内ツアーでこの年2勝を上げ、海外メジャーでも活躍。翌年のPGAツアー進出への足がかりとします。
そしてルール違反という重大なペナルティによって世のゴルファーから失った信頼は、適合外品の全品回収、無償交換対応と、このドライバーの飛距離性能でなんとか挽回することができたのでした。
こうしてPRGR史上最大の事件とピンチは、全社一丸となったリカバリーショットで何とか切り抜けることができました。その後、iD nabla RSから始まったリアルスポーツゴルファーへ向けたRSシリーズは現在のRS5ドライバーへ、その攻めの姿勢は進化し続け、今に受け継がれているのです。
”ギリギリ設計”については、大きな失敗を起こしたもののそこで立ち止まるのでなく、さらに突き進むことによって失敗を成功のタネとすることができました。失敗と成功を繰り返しながら、世の中のゴルファーにワクワクと感動を提供するため、今日もPRGR開発スタッフは開発室で金属音を響かせながら地道な検証と研究を続けています。
つづく
GIRIGIRI NEVER GONNA STOP!
ギリギリに、終わりなし。
カズさんさん
コメントありがとうございます!おっしゃる通りこれからも決してルールは破らず、ギリギリに挑戦していきたいと思います(^_^)
2016のRSを絶賛使っています。
飛びも安定性もあってとても素晴らしいモデルです。
そのなかでこのようなプロセスがあったということを知れてとても勉強になりました。
でこぽんさん
コメントありがとうございます!2016RSをご愛用いただきましてありがとうございます。非常に評価が高くルール上問題もございませんのでこれからもご愛用くださいませ(^_^)
失敗を乗り越えて出来上がった
2017年のRS、
昨年RS5+も購入しましたが、
いまだにあの反発感が気持ちいいので、RS(2017)はエースドライバーとして君臨しております。
RSシリーズ、次回作も期待しております。
ヤジキンさん
コメントありがとうございます。2017年RSF、RS+のご購入ありがとうございます!ギリギリを超えるギリギリ、開発チームか毎回かなり苦しんでますが、その苦しみから生まれてくるクラブにぜひご期待ください(^_^)
2018年 RSドライバー、2020年RS5FW(3,5,7)ユーザー、53歳です。
初めて飛距離と打感に惚れたクラブに出会えました。
想像するだけでもぞっとする大事件ですね。プロジェクトXになりそう。
製造メーカーにおいて想定外のトラブルはどこの会社でもありますが、この難関を乗り越え、めげずに妥協せず上を目指す社員の心意気にまた惚れました。新商品また期待しています。
ゆうさん
コメントありがとうございます!RSドライバー、RSフェアウェイウッドを使用いただきありがとうございます!大事件によって大きなダメージはありましたが、逆に得たものも大きかったかと思います。この大事件を忘れずに、さらなるギリギリに向けPRGRはクラブ開発をおこなっております。どうぞご期待くださいませ(^_^)
日本の他社さんのドライバーを曲がらない事を信頼して使い続けてましたが、飛距離不足を感じ始めて色々模索。
初速の出る海外メーカーのドライバーに買い換えようと量販店さんで測定して居た際に、ほぼTSiに決まり掛けたところで提案されたRS F PROTOTYPE トリプルクローバー。
3球打って全てTSiでのベストを超えた為、高かったけど即購入を決めました。
キャリー215トータル235くらいから+15くらい変わり、その後シャフトの変更等もした結果、今ではキャリー240トータル260くらいになりました。
クラブでそんなに変わると思って居なかったので驚きましたが、追加シャフト含めた出費は寧ろ安かったとさえ思える結果です!
比較用に中古でRS2018のヘッドだけ購入して打ち比べたところ、私の場合ガーミンの計測値で15ヤード程トリプルクローバーの方が飛ぶみたい。
先日は15メートル程の打ち下ろしでしたが、320ヤード地点のバンカーまで飛んでしまい・・・興奮のあまりセカンドをOBさせてしまいました(^◇^;)
人生最高のドライバーです!
豆腐の角さん
臨場感溢れるコメントありがとうございます!RSFプロトのトリプルクローバーのお買い上げありがとうございます。シャフト交換、18RSのヘッドまで試していただくとは凄いですね。さすが熱狂ゴルファー!バチっとはまって結果が出て、人生最高のドライバーと言っていただき、我々もとても嬉しいです(販売いただいた販売店スタッフさんも嬉しいはず!)。引き続きどうぞご愛顧くださいませ(^_^)